参加してから随分時間が経ってしまいましたが2月5日に「政策研究交流大会」に参加してきました。
これは、埼玉県と県内市町村職員の人材開発、交流を目的に立ち上げられた「彩の国さいたま人づくり広域連合」が政策研究と市町村間の職員交流を目的に開催しているセミナーです。
埼玉県内の自治体職員の人材育成を目的にしているセミナーですが、自治体職員に限らずオープンに企業、NPO、大学などから人を集め、一種の異業種交流会を行う事で政策を質・両共に高めていこうとしており、閉鎖的な印象のある自治体の取り組みとしてはとても優れたものではないかと思います。
また、セミナーの後半に出席者参加型イベントの時間があり、ワールドカフェという方式により数百人の参加者がまるで一緒に議論しているような状況を作り出し、あるテーマについて話し合うのですが、それもとても珍しい取り組みであり様々な立場、価値観を踏まえた考え方を政策に取り入れようとしている意図をとても感じるセミナーとなっています。
参加者は自治体の方ばかりかと思いきや、企業、NPO、大学など自治体関係者以外からの出席者の割合が勝っており、その点からも様々な立場からの意見を集めることで政策を高めていこうとする主催者の意図を色濃く感じました。
会場に入ってやはりなと思ったことは、会議室全体が白いワイシャツと紺スーツで埋め尽くされていた事。(笑)
ただ、閉鎖的な印象がある自治体職員の皆さんが積極的に周囲の方に声をかけたり、名刺交換をしていたことです。その姿を見ていると「自治体消滅論」がでたためか自治体の方々も変わってきたんだな感じました。
セミナーは下記の4部構成となっていました。
①埼玉県内の市町村にて実際に実施されている政策事例発表
②企業の取り組み(今回のテーマはブランディング)
③埼玉県と県内の市町村の若手社員が自治体の枠を超えて一緒に検討された政策案発表
④「消滅しない自治体となるために」というテーマで行われた上述のワールドカフェ
それぞれに興味深い内容でしたが、今回伝えたいことは地方創生の最前線で何が起きているかということなので個別の内容については割愛させていただきますがもしご興味がある方がおられましたら別途ご連絡をいただければご説明いたします。
今回特に印象に残った事は、自治体の方々の発表を通して感じた自治体の方々の考え方とその背景にある課題についてです。
①ユーザー不在の政策論
まず、感じたことはどの自治体の発表からもユーザーがどう感じるかを考えている雰囲気が感じられなかったこと。
たとえば、埼玉県を通る新たな観光ルートである第二ゴールデンルートを作ろうという発表がありましたがその発表を聞いている限り「観光客」というユーザーの視点がなく、「東京オリンピックが開催されるから」、「北陸新幹線が開通するから」という環境要因を捉え、観光ルートを作ろうという発想に至っています。ユーザー視点で見れば他の地域では見れないもの、体験できないことがあるから観光に行くわけであり、それを抜きにした提供者側の発想に終始してしまっているのがとても印象的でした。
②希薄な競争意識
また、もう一つ印象的だったことは自治体関係者の7つの発表のどの発表からも競合を意識した内容を聞く事ができなかったことです。
日本全体で人口が減少する中では観光客にしても移住者にしても他の自治体との取り合いであることは自明であり、ライバルが何をしているか知る事により自分の戦略を考えるという企業戦略立案では当たり前のことを行っていない事に驚かされました。
③前例主義
これはやっぱりなという感じではありましたが、福島県の方の発表の中での「除染作業を発注した前例がなかったために困った」という発言にはちょっと驚きました。
もちろん、最近は一定の規模の企業であれば発注後のトラブルと成果物の質を一定以上に保つために発注には一定の手順があることは当たり前になっていますが、前例がない発注であることで発注に手間取ることはまずなく、企業内で発注に携わってことがある人であればかなり違和感を感じると思います。
ましてや人命に関わり、一刻も早く実施すべきことは自明な作業について発注した前例がなく困った」という発言は正直に言えばかなりがっかりさせられました。
④差別化が不得手
今回発表された内容を聞いていて共通していることは、どこかで聞いた事がある内容であることです。
ここでも前例主義が働いてか報道や書籍で見た事がある他自治体の事例をそのまま実施している印象を受けました。
今回発表された内容が偶然そういうものが集まったのかもしれませんが、約200名の参加者というそれなりの規模があるセミナーであり、構成を吟味し特に有用性の高いものが選定されていると考えるのが妥当だと思うと少し残念な気もします。
なぜこういう事になるのでしょうか。
私なりに帰納法的なアプローチで分析してみましたが根本は「ユーザー視点のなさ」ではないかと思います。
ユーザー視点があれば、当然ユーザーの選択肢を考えることになり、その結果競合との差別化を考えなければならず、そのためには競合がどんなことをしているか知るため競合分析をしなければならなくなります。
競合との差別化意識がなければリスクを取る必要がなくリスクを伴う前例主義から脱却する必要がなくなります。
その結果、新しい取り組みにトライせず、より一層差別化ができないということに繋がっていくのではないでしょうか。
では、なぜ競争意識が働かないのでしょうか。
それは今までその必要性がなかったからではないかと思います。
競争は生き残るために起こる自然の摂理であり、企業であればより多くの利益を上げた会社が競争に勝ち残っていくのが当然の摂理です。
利益をあげなれば倒産し、自分自身のみならずそこに従事している従業員が路頭に迷うため必死に戦おうとするのです。
企業がお金を稼ぐために存在しているのに対して、自治体はお金を使うために存在しているとよく言われます。
しかし、そのお金は自分たちで稼いだお金ではなく、個人や法人からの自動的に入ってくる税金と全国のどの自治体でも一定レベルの行政サービスをうけられるように支給される地方交付税により賄われているのです。
人口が増加したり、経済が成長し企業数や企業収益が増加しているときであれば、なにもしなくても人や企業は勝手に集まってきますが、今はそういう時代ではなく、誰もが知る人口減少時代であり、観光客にしても市民にしても取り合いになっている状況です。
地域おこし協力隊が複数の自治体から採用通知を受け、より条件の良い自治体を選んでいる状況がおきています。また、同じ地域にある市町村でも人口が減少している市町村の中にぽつんと人口が増えている地域があったりします。これらのことは、すでに競争が起きていることをよく表していると思います。
そう考えると否応無しに自治体はすでに競争の最中に放り込まれているということになります。
そこで何もしなければ情報化社会においては選ばれない自治体が増えてくることになるのではないでしょうか。
自治体の世界に全面的に競争原理を導入する事は、過剰競争をうむ可能性を高め、そのデメリットは格差の拡大であり、それは住んでいる地域により社会保障などの行政サービスに大きな差が起きるというリスクに繋がる可能性がありますが競争は上述のようにすでに始まっており、感の良い自治体は既に動き出しているため徐々に差が生まれ始めているのです。
既に始まっている競争の中で生き残っていくためにはどの世界でも差別化が必要だと思います。それは勇気を持って人と違うことをすることであり、新しい価値を生み出すことです。
しかし、その前に自分たちが何を持っているか、何を持っていないか、強みは何か、弱みは何かをユーザ視点でよくよく理解する必要があるのではないでしょうか。
手段はいくつもあると思いますが、もっとも勝つ確率が高い手段はいろいろ持っているものの中で「強み」を見出し、それを最大化することではないでしょうか。
それもオンリーワンである「強み」を見出し、それにかけるのです。
オンリーワンの「強み」探しは時に最大の弱点であることもあります。
たとえば、「観光客が来ない」ということは観光収入を増やすという目標からすると大きな弱みであるが、安心して住める環境という意味で言えば部外者が来ない事は強みになります。
また、「海がない」ということは同じく観光資源としては弱みですが、日本のような地震が多く海に囲まれた国では津波のリスクが低いという点で考えれば強みになります。
つまり、強みも弱みも、弱みの裏返しの強みも理解した上でオンリーワンになれる可能性がもっとも高い、つまり差別化要素がもっとも大きい戦略をとっていくことが重要ではないでしょうか。
幸いなことに日本には地域ごとに独特の歴史と文化があり、和を重んじる国民性があり、危機感を持って皆で協力し、その強みを大切にし活かしていけばきっと突破口はあると思います。
そんなことを感じさせるセミナーでした。
2015年2月5日
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